☆いよいよ始まる2歳重賞戦線
栄冠賞は、全国に先駆けて行われる世代最初の2歳重賞である。
ホッカイドウ競馬の2歳重賞戦線は、このレースを起点にし、性別や距離によって路線が分かれていく。
厩舎サイドの大きな期待を背負って早期デビューを果たし、そして勝ち上がった馬たちが揃うのだから、
ハイレベルな出世レースとなるのは自然な成り行きである。
昨年はベラジオゼロが勝利し、世代の一番星に輝いたわけだが、
2着ウィルオレオール、3着ゼロアワーのその後の活躍を思えば、
こと将来性に関して、ここでの着順はあまり重要でないと言ってもいい。
もちろん、レースであるからには勝敗がつくが、あくまでそれは現時点でのもの。
スターの原石たちのぶつかり合いは、見るだけで胸躍るものだ。
当然ながら、予想は困難を極める。
みな同程度に高いスピード能力を持った馬たちが集まるレースであり、
また同厩舎から多数の出走馬がいることもあって、展開は読みづらい。
予想を超えた激しい展開の結果として、2022年のコルドゥアンのような、
思いがけない直線一気が決まるケースもあるわけだ。
各馬まだキャリア1、2戦の段階であり、ここに出てくる馬たちを、
安易に素質で順序付けしようというのはある意味おこがましい話である。
とはいえ、そういって匙を投げるわけにもいかない。
個人的な信条だが、栄冠賞の本命は、
将来的に距離が伸びて本領を発揮するであろうイーブンペース型の気質が強い馬から選ぶことにしている。
というのも、門別1,200mは、速さだけでは乗り切れないタフな舞台であり、
レベルの高いスピードタイプが集まれば尚更、消耗戦の様相を呈する傾向にあるからだ。
結果、マイラーや中距離タイプが浮上しやすくなる。
もちろん、少頭数でペースが落ち着いてしまえば、その限りではない。
何にせよ、はっきりした能力の絶対値を測るための材料がまだ少ない以上、各馬の順序付けには何か別の視点が必要だろう。
それは勝ちっぷりのスケール感であっても、折り合いの良さであっても、このレースに関しては何だっていい。
先々も追いかけたいと思える馬を見つけることも、栄冠賞のひとつのテーマである。
では、僭越ながら印に沿って、個人的な見解と各馬のポイントについて述べてみよう。
◎アヤサンジョウタロ(父サンダースノー)
抜群のスタートで逃げ粘った能検とは裏腹に、デビュー戦は中団から長く脚を使って差し切った。
大トビで非常に柔らかい身のこなしをする馬で、レース内容と合わせて考えると、本質はマイラータイプだろう。
2戦目のウィナーズチャレンジ1では、1番枠でダッシュがつかず馬群から離されながら、
外を回って2着と0秒1差まで追い上げた。
このウィナーズチャレンジは、各馬ともここへの試走的な大人しい運びをした前哨戦であり、
少なからずそこより激しい展開になるであろう本番で、逆転の可能性があるのではなかろうか。
◯ベストグリーン(父スマートファルコン)
何かと話題を集める馬である。
3月、能検初日の一番時計をマークし、デビュー戦はレコード勝ち。
この中間には、グランシャリオ門別スプリントに出走するストリームの追い切りパートナーを務め、
一杯に追う相手を馬なりでアオってみせた。
そして極めつけは、直前の坂路でマークした、3ハロン34秒4という目を疑うほどのタイム。
騎乗していた小野楓馬騎手によれば「びっくりするくらい動きますね。
追い出すとガツンと行くところはありますが、フワッと乗っている間は抜いて走れます」とのこと。
かなり軽かったデビュー戦の馬場とは違う乾いた馬場の1,200mで、かつ一気に相手も強くなるが、
どんなパフォーマンスを見せてくれるだろうか。
▲バウヴォーグ(父エスポワールシチー)
デビュー戦で手綱を取った桑村真明騎手は、レース後の談話で
「気性的にカーっとする面があり、操縦性の難しさがあります」と前置きしたうえで、
「走る馬ですし、そういう面さえでなければ出世するはずです」と手応えを口にしていた。
どちらかというと控えめなコメントが多い同騎手にしては、珍しく期待感を表に出していたのが印象的だった。
今回は石川倭騎手が騎乗するが、当たりの柔らかい石川騎手は、こういうタイプの馬と相性が良さそうだ。
初ナイターでもあり、当日の様子は注意して見たいが、折り合えば勝って不思議ないポテンシャルの持ち主である。
△エイシンリガーズ(父ベストウォーリア)
上述したように、門別1,200mは非常にタフなコースである。
1,000mを強い内容で圧倒した馬が、
ひとハロンの距離延長だけで普通以上にパフォーマンスダウンしてしまうことは日常茶飯事だ。
それを考えると、軽い馬場の1,000mでデビュー勝ちし、
ウィナーズチャレンジ1で良馬場の1,200mも押し切った連勝内容は相当に優秀だ。
ベストグリーンの追い切りを評価するのなら、併せて互角の時計を出したこの馬もまた評価するべきだろう。
前走のようにノーマークで逃げることはできないだろうが、持続力あるスピードは無視できない。
△ゴッドバロック(父シルバーステート)
不要な力みを生じたり、精神的な幼さが走りに影響を及ぼすことも多いこの時期の2歳馬にあって、
この馬のレース巧者ぶりは光るものがある。
「テンションの高さを心配しましたが、レースに行くとしっかりコントロールが利いていました」
というデビュー戦での阿部龍騎手のコメントからもそれが分かる。
前走のウィナーズチャレンジはその良さが生きた3着で、内枠から同様の立ち回りで上位進出が狙えそうだ。
☆重賞の裏にも素質馬あり
栄冠賞の翌日には、1,000mのウィナーズチャレンジ2が組まれている。
先々の路線や距離適性を踏まえてここを選択された馬たちが出走するわけだが、
重賞の裏と侮るなかれ、こちらも将来有望な素質馬が多くエントリーしている。
ここでは2頭だけ名前を挙げておく。
・スペシャルチャンス(父ダノンレジェンド)
シーズン開幕日に行われた1,000mのスーパーフレッシュチャレンジを、59秒2の好タイムで鋭く逃げ切った。
1,200mの前走では、2番手で折り合いに専念して2着に粘り込んだが、
何よりの武器であるスピードを抑え込むより、1,000mで遺憾なく出し切った方がパフォーマンスは上がるだろう。
このレースは函館2歳ステークスの指定競走でもある。
ピッチの利いたバランスの良い走りをする馬で、もし権利を取れれば芝でも楽しみだ。
・トリップス(父ゴルトマイスター)
そもそも数が少ないこの父の産駒だが、
門別では現時点で登録のある2頭がどちらも既に勝ち上がっている(当馬とファインキック)。
この馬はスピードに加えて真面目さがあり、デビュー戦の1分1秒7というタイムも、馬場を考えれば優秀な部類。
ここで互角に戦えれば、リリーカップやフルールカップといった牝馬の短距離路線へ道が広がってくる。
配信でもお馴染み“板垣祐介画伯”の注目馬
☆まだまだ続くフレッシュチャレンジ
重賞戦線が始まるとはいえ、この時期デビューの馬でも、秋のビッグレースにはまだまだ間に合う。
今週行われるフレッシュチャレンジから数頭、注目馬をピックアップしておく。
□6月25日3R(1,000m)
・マナアリイ(米川昇厩舎 父オーヴァルエース)
母は同じく米川厩舎でデビューし、フレッシュチャレンジを圧勝した快速馬クモキリ。
前進気勢が強かった母とは違い、この馬はやや奥手な気性とのこと。
能検はあえてゲートをゆっくり出して終いだけ動かした格好だが、直線の伸びは目立っており、
脚力は母から十分に受け継いでいるようだ。
先々も含めて注目したい。
□6月25日4R(牝馬・1,000m)
・スルーザミル(川島洋人厩舎 父タニノフランケル)
父はフランケルとウオッカを両親に持つ良血で、今年の新種牡馬。
この馬自身は、3月20日の能検を50秒4の好タイムで合格しており、先行併走から反応よく抜け出した内容も評価できる。
仕上げも順調のようで、取材の感触からも期待感が窺えた。タニノフランケル産駒の初勝利に期待が懸かる。
□6月26日5R(1,100m)
・リコータロス(川島雅人厩舎 父クリエイター2)
川島雅人厩舎でデビューして、サッポロクラシックカップをレコード勝ちしたリコーヴィクターの全弟にあたる。
4月22日の能検を50秒3で合格したが、当時はまだかなり馬体に余裕がありそうだったから、
おそらくもっと時計は詰まるだろう。
兄と同じく距離が延びて良さそうなタイプで、将来が楽しみだ。
※6月23日時点
さて、ここからシーズン終盤に向かって、ホッカイドウ競馬の2歳戦がどんどん盛り上がっていく時期だ。
しかし、まだこの先の詳しい展望は、栄冠賞を見ずして語るべからずである。