
夏は競走馬市場の季節。
7月は北海道でセレクトセール(ノーザンホースパーク・7月13~14日)、セレクションセール(静内の北海道市場・7月21日)が実施される。
セレクトセールはいわゆる「夢と魔法の王国」みたいなもので、
世の中には金銭感覚が一般庶民とは違う方々がいらっしゃるんだなあということを感じさせてくれる。
で、私はいくつかの競走馬市場(いわゆるセリ市場)で司会進行を担当させていただいているのだが、
そのひとつが7月7日に実施された八戸市場である。
そうです、青森県。リーズナブルでアットホームなセリ市場として、北海道とは違うキャラが板についてきたようだ。
とはいえ「リーズナブル」といっても、私が社会人になった初年度(昔は会社員をやってました)の手取り額以上になる馬も多数。
やはりサラブレッドはそれなりの値段がするわけですね。
しかしながらそれがセレクトセールになると、八戸市場が1日をかけて販売した合計金額を、
たった1頭の馬だけで軽く超えていくシーンがよく見られるわけですわ。
それが目の前で展開されていくと、そりゃ心がささくれだってしまいますよ。
同じサラブレッドなのに、どうしてここまで違うのかと……。ま、確かに違うんですけどね。
サラブレッドのセリ市は「夢を売る」市場。
値段と走る確率は比例しないが、値段と期待度は多くの場合において比例する。
しかしまあ、ウチの近所にある不動産屋さんの新築住宅の広告には、5ケタ万円の家なんて載っていませんよ……。
ということもあって、セレクトセールの会場には、もう5年以上は足を踏み入れていない。
これから先、なにか恐ろしい巡りあわせがあって買えるような立場にならない限りは、おそらく行くことはないだろう。
ともあれ、セレクトセールは世界最上級の夢の販売場。
上場される馬も「日本ダービー」を筆頭として、JRAの芝でG1を目指すというタイプがほとんどだ。
ということで今年のセレクトセールに出るサウスヴィグラス産駒は1頭だけ。
でもそれが叔父にスターリングローズがいるというわかりやすい良血だから、おそらくいいお値段がつくことだろう。
八戸市場には、そういうすごいプロフィールをもつ馬はほとんど出ない。
でもそのなかには、セレクトセールを経た馬よりもたくさんの賞金を獲得する馬が確実にいる。
要はどこを目指すかということなのだ。
「八戸市場で掘り出し物をみつけよう」という需要は確実にあって、今年も「ひょっとしたら」と思わせるオーラをまとった馬が目についた。
そのなかの1頭が、父フリオーソ、母ムーンダストの牡馬。
母は阪神ジュベナイルフィリーズを制したタムロチェリーの妹で、デュランダル産駒。
なんか瞬発力がありそうな血統ではないですか。
来年以降、どこでデビューすることになるのかはこれから判断されるのだろうが、頭の片隅で覚えておきたい好素材だ。
ダートグレード戦線で大活躍したスマートファルコン産駒にも期待大。
こちらもタムロチェリーの近親となるのが、母タムロマンサーナの牡馬。
最近のダート界は、ヴァーミリアンをはじめ、カネヒキリ、エスポワールシチーなどと、
キャラクターがかぶる種牡馬がたくさんいるから生き残っていくのが大変。
父のためにも産駒には頑張ってもらいたいところだ。
南関東ゆかりの血統としては、1997年の浦和桜花賞と関東オークスを制したシルバーアクトの産駒が登場。
ちなみに現在、シルバーアクトさんは宮城県北部に住んでいる。
そのスクワートルスクワートの牡馬は、税別120万円で落札。
お値段はセレクトセールにまったく及ばなくても、結果で勝てばいいのである!!
かつて、馬産地といえば東北だった。
小岩井農場からは多数の日本ダービー馬が出ているし、青森からもたくさんの活躍馬が送り出された。
それが現在はマイナーな地位になってしまったのは、これは血統と育成の進化が北海道に比べて遅かったからだと思う。
それでも東北、とくに青森の馬は「丈夫」という点がなによりの長所として挙げられる。
八戸の周辺はセメントの原料となる石灰岩の産地で、とある牧場で聞いた話では「3年ぐらいで水道管がカルシウムで詰まる」らしい。
そういう水を飲み、その土壌で育った草を食べているから骨が丈夫。
そういえば、英国も石灰岩がゴロゴロしている土地柄だし、アメリカのケンタッキーも鍾乳洞があるような地質。
そういう観点からも、青森の馬にはもっと注目が集まってもいいのではないかと思うのだ。
ということで馬主のみなさま、来年の八戸市場にぜひご来場くださいませ!
南関東にも青森そして東北の馬がたくさん在籍している。
7月14日の浦和競馬には、青森産5頭、宮城産1頭が出走を予定している。
そのなかから、第8レースに出走するブランドアオモリをピックアップ!
3年前の八戸市場で取引されたこの馬は、JRAで4着4回、兵庫で1勝と、詰めに課題を残しているが、体調自体は徐々に上昇している様子。
昨年のゴールデンジョッキーカップ(園田競馬場)で騎乗した岡部誠騎手が「内枠だったからインで詰まって……。外枠だったら勝ってたよ」
とボヤくほどの瞬発力の持ち主なのだが、広いコースはイマイチというタイプ。
浦和コースは初めてでも、一気の上昇がありうる馬だ。
ということで、今回の予想は7月14日(火)浦和競馬第8レース。
◎ブランドアオモリ
○ハセハイダウェイ
▲ジョーリブラン
☆サエッターレ
△リブストロング
ブランドアオモリの向正面からのまくり脚に期待!!
浅野 靖典
1969年8月1日生まれ
1998年にグリーンチャンネル「中央競馬中継」のキャスターから競馬関係のキャリアをスタート。
現在は各種媒体に原稿を寄稿し、競馬関係のメディアにも出演。
JRA、青森、九州のセリ市場の司会進行役も担当している。
ときどきグリーンチャンネルの番組「競馬ワンダラー」で、ワゴン車の運転手として全国を放浪。
各地の地方競馬場には1~2年に一度以上は訪問している。