
馬は暑さが苦手というのは、わりと広く知られている知識ではなかろうか。
あれだけ大きい体で全身運動をするものだから、筋肉の発熱量はとても大きく、体を冷やさないと生命維持さえ危なくなる。
しかしそんな状況でも周囲の空気が温かければシャレにならん……。
というのが基本的な理由。
私の学生時代の後輩に体重120kgのヤツがいて、初夏の気持ちいい陽気の日に山のほうへ10人ほどでハイキングに行ったら、
そいつだけ全身から湯気を立ち昇らせて、道の真ん中でへたりこんでいた。
それを考えると、
体重200㎏のアケボノ選手が白熱灯でライトアップされているリング上で10分以上も戦うなんて、かなりすごいことだと思いますわ。
とはいえ、プロレスはところどころで息を入れることができる。
競走馬の場合はほとんどの場合で1分以上もトップスピードで走り、そのうちの何秒かは極限値で走ることを強要される。
競走馬はつまりアスリートの世界だから日ごろの鍛錬があるとはいえ、本当にすごいことだよなあと、書きながら改めて感心してしまった。
マラソンが冬に行われることが多いのもそれが理由だろうし、欧州のサッカーも秋から春にかけてがシーズン。
全身運動を必要とするスポーツが、気温が高い時期を避けて行われるのは、むしろ当然のことなのだろう。
しかし日本の競馬は一部を除いて通年開催。
馬が「いや、ちょっとあたしゃ夏が苦手でして」といくら人間に訴えても、お望み通りにいかないケースもある。
そんないわゆる「夏が苦手」という馬の多くは、体内で発生した熱をうまく発散させられないタイプ。
エンジンが空冷式なのにちゃんと冷やせないから、オーバーヒートしてしまうのだ。
もちろん、競走馬を送り出す側はそうなったらまずいので、そのあたりを考えつつスケジュールを決めることになる。
そして馬券を買う側は、どの季節が得意なのかを予想に組み込むことが重要だろう。
船橋のキャプテンヒーローみたいに、気温が下がると走るタイプっているものね。
その一方で、個人的に不思議に感じていることがある。
それは調教時間。なんで夏でも冬でも調教は早朝にやるのだろうか。
先月、関東地方が大雪に見舞われたとき、
浦和の野田トレセンは馬場悪化で調教が午後になったらしいのだが、そもそも冬の調教は真昼にやればいいんじゃない?
もちろん、競馬場に行く騎手は朝から調教せざるをえないけれど、
それでも午前2時半起床で3時から1鞍目とか、そんなことはしなくても……と思うのだ。
(冬の調教風景)
という質問をJRAのある調教師にしてみたら、
「それはまったくそのとおりなんですが、『そうしましょう!』と強力なリーダーシップで変えてくれるような人が誰もいないから、
そのまんまなんですよ」とのことだった。
つまり“慣習”ということですな。
とはいっても、西日本の競馬場所属の某騎手のように、深夜1時から調教を始めて9時過ぎに終わってあとはヒマ……
というのはいかがなものか、という気がするんですよ。
同じことは、数年前の1月にソウル競馬場に行ったときにも感じた。
競馬開催が終わった日曜日の夜に郊外で飲んで終電をハズし、
当時ソウルで騎乗していた野田誠騎手のアパートに泊めてもらい「明日は4時半起床ですから」と言い渡され、
そして4時50分発の通勤バスで競馬場に行って、5時半から調教開始(全休日は火曜日)。
韓国は日本と時差がないので1月は空が明るくなってくるのが7時半頃。
つまり、気温がもっとも低い時間帯に調教が始まるのだ。
ちなみに私が調教を見た日は、馬場監視所のモニターにマイナス7.8度と表示されていた。
(野田誠騎手の調教姿)
開催日じゃないんだから、おひさまが出てから調教をやろうよー!
この件についても、
現地の調教師に「昼に調教をすればいいと思うんですけど」と聞いてみたら、「そうだよね……」という返答がかえってきただけだった。
スタッフは完全防備の服装でモコモコしているし、事故率も高くなるよなあ。
(朝7時でもこの暗さ……)
といっても、慣習を変えるのはなかなか難しいことなのだろう。
トップダウンで命令されるなどの“劇薬”がなければ、そのきっかけも作りにくそうだ。
でも、馬券を買う側はそこを利用する手段がある。
要は、冬場が大得意な馬を選べばいいわけだ。
昨年の1~3着馬はその筆頭格といえそう。
そこに食い込んできそうな馬を加えて……
◎バトードール
○モンサンカノープス
▲ムサシキングオー
△グランディオーソ
△タイムズアロー
△インサイドザパーク
と書いたものの、えらく混戦ですよ。
この予想のシルシを決めるまで30分ぐらいかかったもの。
というわけで、ここは思い切っていきましょう。
中心には昨年の覇者、バトードールを指名!
モンサンカノープスは冬場が微妙かもという気はするのだが、それでも今の勢いならば重賞でもチャンス。
ムサシキングオーは前走が初の大井以外での競馬で、遠征2度目の慣れに期待したい。
グランディオーソは1~3月の連対率が100%、1800mの3着内率100%という点が強調材料。
タイムズアローは冬場の実績はいまひとつでも、徐々に上昇していると考えたい。
穴は昨年3着のインサイドザパーク。
浅野 靖典
1969年8月1日生まれ
1998年にグリーンチャンネル「中央競馬中継」のキャスターから競馬関係のキャリアをスタート。
現在は各種媒体に原稿を寄稿し、競馬関係のメディアにも出演。
JRA、青森、九州のセリ市場の司会進行役も担当している。
ときどきグリーンチャンネルの番組「競馬ワンダラー」で、ワゴン車の運転手として全国を放浪。
各地の地方競馬場には1~2年に一度以上は訪問している。