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「競走馬の流動性」
2021年2月15日

2月14日に高知競馬場で重賞の「だるま夕日賞」が行われまして、1番人気のスペルマロンが圧勝。
高知での重賞勝利数を6に伸ばしました。

となると、3月16日に行われるダートグレード重賞の黒船賞でも期待できるかな?

となるのかどうか、個人的にはビミョーという気がしています。
スペルマロンは昨年、だるま夕日賞でアタマ差2着に入り、続いて黒船賞に出走して6着でした。

ちなみに昨年の黒船賞は、JRA所属馬が5頭、兵庫が2頭、笠松が1頭、そして高知が4頭という内訳で、3着までがJRA所属。
4着に高知のサクラレグナムが食い込みました。
でも今年は、ヘタすると「黒船賞選考競走」となっている3つの重賞で勝利を挙げた3頭が、3頭とも出ないような気がするのです。

昨年の珊瑚冠賞勝利時のスペルマロン

(昨年の珊瑚冠賞勝利時のスペルマロン)

皆さんは、地方競馬の賞金額が上昇傾向にあるということをご存知かと思います。

その上昇度が高知はかなりのものでして、とくに昨年の秋以降が顕著。
大晦日の高知県知事賞は、1着賞金が先週の報知グランプリカップと同じ1,200万円にまで上昇しました。

さらに「総賞金」で見ると、高知県知事賞のほうが多いんですよ!
●高知県知事賞の5着までの賞金総額=2,160万円
●報知グランプリカップの5着までの賞金総額=2,040万円
この差は、4着と5着の賞金額が違うことから出ています。

高知の重賞は、4着が1着賞金の15%で、5着が10%
南関東の重賞は、4着が1着賞金の10%で、5着が5%
これは主催者ごとの賞金制度によるもので、高知は賞金総額が1着賞金の1.8倍なので「180制」、
南関東の重賞は同じく1.7倍なので「170制」と表現されます。

ただし南関東は、重賞以外だとJRAと同じ「190制」が基本です。
賞金額が上がるのは、売上低下による暗黒時代を耐えたみなさまにとって「競馬を続けてきて良かったなあ」と思えること。
その一方で、これだけ賞金額が上がったために、競走体系のバランスが崩れている感があります。

昨年の黒船賞

(昨年の黒船賞)

昨年のサクラレグナムを例にとると、高知競馬の黒船賞は1着賞金が2,100万円で、サクラレグナムは4着に健闘して190万円を獲得。
その19日後に同じ1,400mで行われた高知所属馬限定の「御厨人窟(みくろど)賞」で2着に入って140万円を獲得しました。
今年の黒船賞は、昨年と賞金額が同じ。

ではここで問題です。
●サクラレグナムは現在12歳で、以前より疲れが取れにくくなっている
●黒船賞の12日後、3月28日に行われる御厨人賞の1着賞金は600万円である

次のうち、どちらを選ぶほうがいいでしょうか?
1.黒船賞の勝利を目指す
2.黒船賞をパスして、御厨人賞で勝利を目指す

問題を出しておいてアレなんですが、答えは「正解はない」だと思います。

黒船賞という高知唯一のダートグレードレースを勝ちに行く、そして地元所属馬の出走で黒船賞を盛り上げる。
それを目的に出走するのは「アリ」。

逆に「御厨人賞の1着賞金は、黒船賞の2着賞金よりも上。だから確率的に実入りが高いほうを選択する」のもアリ。

私が感じる「バランスが崩れている感」の正体はこれなのです。

昨年の黒船賞のパドック

(昨年の黒船賞のパドック)

同じようなことは30年くらい前にもありまして、たとえば1992年の東京ダービーの1着賞金は6,800万円。
同じ年の日本ダービーはミホノブルボンが逃げ切りましたが、1着賞金は1億3千万円。

ちょっと違和感がありませんか?

東京ダービーが高いのか、それとも日本ダービーが安いのか。
ちなみに1992年に名古屋競馬場で行われた東海地区所属馬限定「東海桜花賞」は、1着賞金が2,000万円。
盛岡競馬場で行われた「みちのく大賞典」も同じく2,000万円(フルゲート8頭)と、けっこうな額ですねえ。
さらに廃止された高崎競馬と宇都宮競馬で年末に実施されていた「高崎大賞典」と「とちぎ大賞典」は、1992年の1着賞金がどちらも1,500万円。
これなら「全国レベル」を目指す必要はなさげですよね?

そうなっている要因のひとつには、当時と現在では「流動性」がまったく違うことが挙げられます。
その当時、地方競馬の馬主さんは、ほとんどが競馬場の近くに住んでいる人。
いわゆる会社員や自営業の人が馬主になろうとすると、馬主資格の申請書に記入する「預託予定調教師」と知り合うために、
誰かに紹介してもらうというプロセスが必要です。
昔はそれが大きいハードル。馬主さんが増えると、既存の馬主さんの馬が勝つ可能性が少しだけ低くなりますからね。
その頃は、鉄道の「時刻表」に全国の地方競馬の開催日程が広告として掲載されていました。
つまりそのくらい、地方競馬は限られた範囲の人たちで回っていたのです。

1989(平成元)年10月の地方競馬開催日程

(1989(平成元)年10月の地方競馬開催日程)

それが現在は、開催日程どころかレースまで自宅で見られる状況。
さらには馬もネットを通して取引されることもありますし、調教師がホームページやSNSで情報を発信することも!
その影響で、高知ではこんな現象が起きています。
「馬のレベルが上がったので、高知のC1クラスで勝負になる馬が、南関東に行くケースが増えているんですよ。
そのせいでB級とA級がスカスカ」(某調教師)

これは良いのか悪いのか一概には言えませんが、馬券を買う側から考えると、そういう馬は南関東での初戦こそが妙味。
ぜひ頭の片隅に入れておいてください。

水曜日の金盃に出走するナムラアラシはまさに「今の時代だからこそ」という馬。
しかしここで通用するのか、その判断は難しいですねえ。

◎11.サウンドトゥルー
○3.マンガン
▲5.トーセンブル
△9.シュプレノン
△12.ナムラアラシ
△7.ストライクイーグル

ナムラアラシは後方からという脚質も含めて「様子見」にしました。
注目は3連覇を狙うサウンドトゥルー!

続く木曜日は雲取賞。
私が「すぱっと!POG!」で指名している馬も出走予定!

◎10.ランリョウオー
○3.タブラオ
▲4.トランセンデンス
△12.シビックドライヴ
△7.ノットリグレット
△5.ヒートアップハート

ここまで連対率100%のランリョウオーと、3連勝中のタブラオに注目。
トランセンデンスは過去の実績を含めて、ここでも勝負になりそうです。

個人的な期待は「すぱっと!POG!」で指名しているヒートアップハート。
総合成績はイマイチでも、3歳シーズンに限ればまあまあの順位になっているのです!


プロフィール

プロフィール

浅野 靖典

1969年8月1日生まれ

1998年にグリーンチャンネル「中央競馬中継」のキャスターから競馬関係のキャリアをスタート。
現在は各種媒体に原稿を寄稿し、競馬関係のメディアにも出演。
JRA、青森、九州のセリ市場の司会進行役も担当している。
ときどきグリーンチャンネルの番組「競馬ワンダラー」で、ワゴン車の運転手として全国を放浪。
各地の地方競馬場には1~2年に一度以上は訪問している。

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